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東京家庭裁判所八王子支部 平成11年(少ハ)2号 決定 1999年6月29日

本人 K・S(昭和58.2.2生)

主文

一  少年を中等少年院に戻して収容する。

二  窃盗保護事件については、少年を保護処分に付さない。

理由

第一戻し収容申請事件(平成11年少ハ第2号)

(申請の理由の趣旨)

少年は、平成10年2月10日に当庁において初等少年院送致の決定を受け、平成10年11月9日に赤城少年院を仮退院し、以後東京保護観察所の保護観察下にあるが、仮退院に際し、犯罪者予防更生法34条2項所定のいわゆる一般遵守事項及び同法31条3項の規定に基づき関東地方更生保護委員会が定めた特別遵守事項、すなわち、「他人の金品に手を出さないこと。」(同4号)、「勉学又は仕事に辛抱強く励むこと。」(同5号)の遵守を誓約した。

しかし少年は、

1  赤城少年院仮退院後、平成10年12月1日から東京都西多摩郡所在の「○○」において建築解体現場の清掃作業員として2日間、また平成11年2月下旬から東京都羽村市所在の「○□」においてガソリンスタンド店員として数日間稼働したのみで、ほとんど就労しなかった。

2  平成10年12月16日午後10時30分ころから同月17日午前3時ころまでの間に、東京都羽村市○○×-×-××所在のA宅から80CCのオートバイであるホンダNSR1台を窃取した。

3  平成11年4月13日午前6時30分ころ、東京都あきる野市○○付近路上において250CCのオートバイを無免許運転した。

4  平成11年4月25日午後9時10分ころ、東京都青梅市○○×丁目×番地の×所在の「○△」店内のテレビゲームコーナーにおいて、同店店長B管理にかかるゲームソフト2個(販売価格合計1万6230円)を窃取した

ものであり、1の行為は一般遵守事項1号「一定の住居に居住し、正業に従事すること。」の後段及び特別遵守事項5号「勉学又は仕事に辛抱強く励むこと。」に、2及び4の各行為は、一般遵守事項2号「善行を保持すること。」及び特別遵守事項4号「他人の金品に手を出さないこと。」に、3の行為は一般遵守事項2号「善行を保持すること。」にそれぞれ違反する。

以上のとおり、少年は遵守事項違反を繰り返し、仮退院後間もなく従前の不良仲間との交際を復活させ、徒食生活を続けており、平成11年5月以降は、保護観察官との接触を避け出頭指示にも従わない。こうした少年の仮退院後の行状、保護者の保護能力、その他諸般の精状を考慮すると、現状においては保護観察による処遇は極めて困難であり、少年を少年院に戻して収容することが相当である。

(当裁判所の判断)

少年の保護事件記録、少年調査記録及び当審判廷における少年の供述によれば、「申請の理由の趣旨」記載の各事実が認められる。少年の右行為は、前記特別遵守事項及び一般遵守事項に違反したものであり、少年の資質、家庭の保護能力など諸般の事情を考え併せれば、少年を現状のまま放置するときは、重ねて非行を反復するおそれが顕著であるといわなければならない。

少年は、少年院では比較的順調に生活していたし、仮退院後は少年院入院前に見られたような常習窃盗や粗暴行為は自重されてはいるが、仮退院後すぐに以前の不良交遊を再開し、就労することあるいは就労先を見つけることの難しさに気持ちが萎え、徒遊中心の生活を送っており、少年には健全な社会生活を送ろうとの意欲は認められない。また、少年と同居していた少年の父親の内縁の妻は、仮退院後保護観察官や保護司の指導助言を受けてはいたが、父親は少年とほとんど接触することはなく、父親には少年を引き取り指導する意思と能力はない。

こうした事情を総合考慮すると、少年に対しては、本件を契機として改めて内省を深めさせると共に、再非行の防止と今後の生活の基盤となる職業指導を中心とした教育の必要性の観点から、少年院に戻して収容することが必要かつ相当である。なお、少年院の種類については、少年は本決定時16歳で、初等少年院決定当時とはその要保護性の程度が異なるから、中等少年院を指定するのが相当である。

よって、犯罪者予防更生法43条1項、少年審判規則55条により主文第一項のとおり決定する。

第二窃盗保護事件(平成11年少第826号)

(非行事実)

少年は、平成11年4月25日午後9時10分ころ、東京都青梅市○○×丁目×番地の×所在の「○△」店内のテレビゲームコーすーにおいて、同店店長B管理にかかるゲームソフト2個(販売価格合計1万6230円)を窃取したものである。

(法令の適用)

刑法235条

(処遇理由)

非行事実は前記非行事実記載のとおりであるが、本件保護事件は戻し収容申請事件と併合審理し、戻し収容申請の理由の1つともなっているから、戻し収容申請事件について少年を中等少年院に戻して収容する以上、少年を重ねて保護処分に付する必要性はない。

よって、窃盗保護事件については、少年法23条2項により少年を保護処分に付さないこととし、主文第二項のとおり決定する。

(裁判官 大島道代)

〔参考〕 環境調整命令書

東京保護観察所長 殿

平成11年6月29日

東京家庭裁判所八王子支部

裁判官 大島道代

少年の環境調整に関する措置について

氏名 K・S(昭和58年2月2日)

本籍 茨城県日立市○○×丁目××番

住居 東京都福生市○○×丁目×番地 ○○住宅×-×××

職業 無職

当裁判所は、別添決定書謄本のとおり、平成11年6月29日、上記少年について「少年を中等少年院に戻して収容する。」との決定をしましたが、少年の更生にとって少年院における矯正教育に続く在宅処遇段階が重要な意味を持つことになると思慮されますので、少年の在宅処遇の条件を整えるため、少年の環境の調整に関し下記のとおりの措置を採られるよう、少年法24条2項、少年審判規則39条により要請致します。

1 環境調整に関する措置の内容

東京保護観察所長は、少年が少年院を出院するに際し、適切な帰住先及び就労先を確保されたい。

2 上記措置の必要性等

少年は少年院仮退院後、保護者である父親のもと(上記記載の住居地)に帰住したが、父親は秋田に単身赴任中で、少年は住居地に父の内縁の妻(少年は「おばさん」と呼んでいる。)と同居することになった。少年の生育史をみると、少年が2歳のときに両親は離婚し、父親が少年を引きとったが、父親はすぐに秋田に住む祖父母に少年を預け、少年とは年に1度くらい会う程度であった。平成6年に少年は父親と同居することになったが(祖父母が父親のもとに少年を連れてきたとのことだが、いかなる理由で父のもとに引きとられたのかは不明。)、当時すでに父親は現在の内縁の妻と同居しており、少年は父親にも内縁の妻にもなじめない状態であった。父親は少年の学校などとの対応もすべて内縁の妻任せであり、少年との接し方がわからず、共に食事をしたり会話をしたりすることは皆無に等しく少年を放置していた。少年が少年院を仮退院したときも、内縁の妻が少年院に迎えにいっているし、その後も内縁の妻は保護観察官や保護司に少年の生活について相談をしたりはしているが、父親が積極的に少年の就労先を捜したり、あるいは少年の生活に気を配っていた等少年の更生のために努力していたとの事情は全くみられない。

このように少年自身これまで父親とは必要最小限度の範囲でしか関わりを持っておらず、実際に少年が父親に養育された期間はほとんどないこと、父親には監護能力が認められず、家庭で少年を見るのは無理と言って少年を引きとる意思がないこと、少年には父親宅以外に現段階では帰住先がないし、少年の周囲には特に利用できる資源はないことを鑑みると少年を父親宅に帰住させても再度不良交友、無断外泊などの問題行動が生じる可能性が高い。他方少年は就労を希望しているが、現在のところ就労先や引受先は全く確保されていない。

したがって、上記1記載のとおりの環境調整の必要性が認められる。なお、その他参考となる事情について、別添の決定書謄本、少年調査票の写し(当庁家庭裁判所調査官○○作成の平成9年12月28日付け及び平成10年2月6日付け各少年調査票、当庁家庭裁判所調査官○□作成の平成11年6月25日付け少年調査票)、鑑別結果通知書の写し(八王子少年鑑別所長作成の平成10年1月5日付け、平成10年2月4日付け及び平成11年6月22日付け各鑑別結果通知書)を参照されたい。

以上

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